大阪高等裁判所 昭和57年(う)689号 決定 1982年9月21日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件記録によれば、被告人は、頭書被告事件につき昭和五六年一〇月一四日大阪地方裁判所において懲役二年六月に処する旨の有罪判決を受け、同月二七日控訴の申立を行うと共に、同年一二月一五日弁護人海藤寿夫の弁護人選任届を提出したが、同弁護人から同五七年三月二三日辞任届が提出されたため、同年五月一五日改めて弁護人松井忠義の弁護人選任届を提出したこと、当裁判所は同年五月一〇日控訴趣意書差出最終日を同年六月一七日と定め、肩書住居地の被告人宛にその通知をしたところ、郵便送達報告書には、同年五月一一日右通知書を被告人本人に渡したと記載したうえ、受領者の署名又は押印欄に松井弁護人の選任届のそれと同一の印影が押捺されていること、然るに右控訴趣意書差出最終日までに控訴趣意書は提出されず、その後の同年六月一九日に至り、弁護人松井忠義から控訴趣意書が提出されるに至つたことが認められる。更に、当審における事実調べの結果によれば、右通知書が送達された当日、被告人は不在であつたが、留守を預かつていた義弟の妻酒井房惠が被告人の前示印鑑を使用して通知書を受領したうえ、被告人宅に置いて帰つたこと、右房惠は留守居中に被告人宛の書留郵便等が配達されるときは被告人の印鑑を使用してこれを受取つたうえ、置いて帰るのが常であり、被告人もこれを諒としていたこと、被告人は右送達場所に居住していたのであり、右通知書はその後被告人宅から発見されたことを認めることができる。
そうすると、右通知書は被告人自身が受領したのではないが、被告人から留守中に届いた通知書等の受領を託されていたと目される房惠が受領したことにより、本件送達は補充送達の趣旨から考え適法と言わねばならず、また、前記認定事実のもとでは本件控訴趣意書提出の遅延がやむを得ない事情に基づくものとは認められない。
よつて、刑事訴訟法三八六条一項一号を適用して、主文のとおり決定する。
(村上幸太郎 逢坂芳雄 八束和廣)